ミモザノヘヤ

高田馬場の弁護士の日記です。

滑らかな名乗り

 わがボス井浦謙二が電話をしています。「いうらと申します」「え?イムラさまですか」「いえ、井戸の井に浦島太郎の浦です。」ボスの姓、井浦は珍しい上に発音のしにくい名字なのでいつも大変苦労しています。この苗字、ボスは変えたい変えたいと常々言っておりますが、そんなことはできるのでしょうか。

 日本では戸籍制度というものがあって、戸籍上の名前の変更は容易ではありません。

 もっとも絶対にできないということではなく、氏(苗字)については「やむをえない理由」(戸籍法107条1項)名については「正当な理由」(同2項)があれば家庭裁判所の許可を得て、変えることができます。違いはハードルの高さが「氏」の変更の方が厳しいというところです。

 氏の変更についての「やむをえない理由」とは裁判例によると「当人にとって社会生活上氏を変更しなければならない真に止むを得ない事情があると共にその事情が社会的客観的にみても是認せられるものでなければならない場合」(大阪高裁昭和30年10月15日)を言い、珍奇、難称、忌み嫌われる、あるいは蔑視されるような漢字が使用されているなどの場合でなければなりません。

 変更を認めた例としては、

 「猿橋」さん(東京家裁昭和43年8月17日)「猿田」さん(広島家裁昭和25年6月15日)さんについて、猿が獣を連想させ、「サル」などの渾名で子供がいじめられる可能性に配慮した裁判例

 「おおなら」さんについて「オナラ」に通ずるから、読み方が滑稽であるとして、変更を認めた裁判例岐阜家裁高山支部昭和42年8月7日)、

 「仁後」さんについて「二号」を連想させるとして変更を認めた裁判例(福岡高等裁判所決定昭和34年7月4日 もっともこの事案では申立人に年頃の娘さんが2人いたことも大きいかもしれません)等があります。

 ボスには気の毒ですが、井戸の井に浦島太郎の浦では、それほど珍妙、難読ではないので、認められないと思います。

 もっとも裁判例によると裁判所が変更を認めるとしても勝手に考えた全く無関係な名前、には変えられないようで、妻の旧姓、申立人の母方の祖父母の姓、など一定のゆかりのある名前でないといけないようです。

 氏の変更では犯罪に関するものやストーカーの被害者の問題などもっと深刻なものがありますが、その話はまた後ほど。

ところでボス、先程「井戸の井に浦嶋太郎のです」と説明していたように思うのですが・・・・

   平成24年4月21日 文責 弁護士 菊谷淳子