もっさんの便番
もっさんは神戸のええしのぼんぼん(良家のぼっちゃん)でしたが訳あって貧乏学生でした。
もっさん宅は大学に近かったこともあって、いつも同じメンバーがごろごろしていました。
今でもはかなく交流を続けている、そうりょ、しょうにん、おどりこもその仲間です。しかしもっさん宅に集まるのには、大学に近いだけじゃなく、別の理由もありました。
もっさんの手作りカレーがそれはそれはおいしかったのです。
貧乏学生の中でも最貧を誇っていたもっさんが住んでいたのは、ひょっとすると駐車場より安い賃料月額2800円、和式便所、風呂まで徒歩10分のいましろたかしの漫画に出てきそうなアパートでした。食材はみんなで調達してもっさんに献上します。
もっさんは食卓で、よく高校時代の思い出を語っていました。
特に多かった話題が 便番 でした。
関西の有名進学校だったもっさんの母校では、便番という雨が降ろうが吹雪であろうが、裸足、短パン、素手でのトイレ掃除のお当番がありました。もっさんの母校は山すそにありますが、もっさんの話の中でも「吹雪の日の第3Gの便番(きわめて屋外に近いと思われる)」は一番 もりあが 、ごほ、恐ろしい話でした。
でも便番の話をするときのもっさんはなぜか楽しそうでした。
もっさんちの古式ゆかしい和式トイレもいつもぴかぴかでした。
さて、弁護士の当番の話です。
当番弁護士制度、というと刑事の方ばかりが有名ですが、実は民事事件にも一応あります。
弁護士会の民事家事当番弁護士制度、という法律相談です。
これはすでに訴えられていて、期日が迫っている、とか、自分で訴訟を起こしてしまったが複雑でやはり自分では無理なので相談したい、という場合に利用できる初回のみ30分間無料以降は延長料金で相談する、というものです。
たいていは訴えられてすぐに持ってこられることが多いので、30分でも話はできますが、
原告第12準備書面、なんてものを持ってこられる方もいます。
裁判は権利の実現を目的として行うものですから、なめてかかってはいけないのですが…
たぶん裁判所でも早い段階で「弁護士に相談してください」と言われたであろうと推測します。裁判所が「弁護士に相談してください」と言う時はたいていその当事者の旗色の悪い時ですが、そういうことすら気がつかずに突っ込んでいきますと、もはやどうしようもなくなっていることがあります。
…ということを30分で説明って言っても…•(΄◞ิ౪◟ิ‵ )
さて、話はもっさんに戻ります。
あるひ、いつものように、皆でもっさん手作りのカレーをおいしく食べていたとき、
そうりょがふとつぶやきました
トイレのブラシ柄ないなあ…(΄◞ิ౪◟ิ‵ )
みんな一瞬、カレー食べてるときに何言うねんと思いその後一瞬、
はっ(΄◞ิ౪◟ิ‵ )
としましたが、世の中には考えない方が幸せなことがありますので、黙殺しました。
もっさんが歳をとらなくなってもうだいぶたちます。
でも今でも、もっさんも便番も、私たちの思い出話の中心です。もっさんの手作りカレー、もう一回食べたいです。
平成25年6月20日 文責 弁護士 菊谷淳子