聖母のお悩み
そのポスターは、なんとなく気になるものでした。
太公の聖母と呼ばれる有名な聖母子像(ラファエロ 1505年)です。
赤い服は聖母マリア、抱かれているのは幼子イエス・キリストです。
この絵を見て
聖母、まさか育児に嫌気が…(΄◞ิ౪◟ิ‵ )
と疑うのは罪深い仕事のせいです、アーメン
さて、子供への虐待は家庭内だけではなく、子供が預けられている場所であればどこででも発生しうるものです。しかし、虐待はそもそも密室でこそこそ行われるものですから、目撃者がいることはほとんど期待できませんし、被害者も幼く証言の信憑性や被害の認識の欠如など、立証には困難を伴います。
それだけではありません。保育施設で起こったか起こってないかわからない虐待事件は、別の社会的観点から真相がゆがめられる可能性があるのです。
1983年、カリフォルニア州の保育園で少年に性的虐待があったとして保護者が園長の孫を告発しました。この事件はきちんとした検証も経ないまま、マスコミによってセンセーショナルに報道されてしまい、その結果多くの保育園に「同種の事件」が起こったとされ、廃園に追い込まれる保育園も現れました。
事件は被害者306人にも上る大事件に発展し、1984年に保育園関係者らが起訴されましたが、その後次のような事実が判明しました。
①一番はじめに告発した保護者は妄想型精神分裂病とアルコール依存症の診断を受けていたこと
(この母親は後にアルコール依存症で死去)
②質問者が子供に反復して質問し、被害記憶を植え付け、誘導尋問を行った可能性が高いこと
③物理的にありえない被害を主張する「被害児童」もいたこと
④調査をゆだねられた自称専門家が、何の専門的資格も有していなかったこと
⑤証人は検察との取引により偽証したことを認めたこと
⑥物的証拠は全くないこと
⑦最初の「被害」児童自身は、加害者は保育園ではなく、実父だと主張していたこと
結局およそ10年に及ぶ法廷闘争の末、検察は全員の起訴をあきらめました。
この事件により保育園関係者はもちろん、「被害」を受けたとされる児童たちにも多大な傷跡を残したことは言うまでもありません。
この事件の真相はともかくとして、背景にあったのは
子供を預けて働く母親への偏見と、母親自身の罪悪感、そしてろくに検証もせず行ったパニック報道による社会的ヒステリーだったと言われています。
母と子の神話は根強いですから、共働きでなければなかなか生計を立てにくい今の日本でもこのような事件はまだ起こりうるような気がします。
さて、上の絵で聖母マリアは単にこう悩んでいるのかもしれません。
ママ友との距離感がね…(΄◞ิ౪◟ิ‵ )
平成25年4月12日 文責 弁護士 菊谷淳子