修習生の時のことです。
民事裁判の修習で、裁判官より先に法廷に入ってスタンバイしているといつも天井付近から
パキ、ぱき、パキパキ、と変な、しかし大きな音が鳴るのです。
ベテラン書記官のmさんは平然と言いました。
「裁判所は人のうらみつらみがつもっていますからね、うらみがつもってああいう音がなるんです。」
うらみつらみ、というのは私どもの世界では年中向き合う感情です。
相手から向けられることも、自分の依頼者の方が恨みに燃えている場合もあります。
通常の民事裁判では、互いに主張を交わし、言いたいことを言って争点が煮詰まってから、和解の試みをしたりします。
そういった作業にかかる時間は事件によって異なるのは当然ですが、複雑ではない事件では平均的には半年から1年くらいかなというのが実感です。その時間が経過する間に少しでも薄らいでいくのならいいのですが、残念ながらそれだけでは簡単に消える物ではありません。時間がたつにつれて増幅することもあります。
しかし、うらみつらみなど持ったままでは人生の邪魔です。
うらみつらみには気力と体力という維持費がかかります。
長い期間うらみつらみを維持するのは大変なのです。1年でも大変です。
人が生きていくにはいろんなことをしなければなりませんから、うらみつらみに割くことのできる時間なり労力なりは少ない方がいいのです。
それでもうらみつらみと決別するのは簡単ではありません。
時間の経過によりうらみつらみが薄くなることや、落とし所が見えてくることも皆無ではありませんが、決別にはあくまで本人の意思が必要です。
時間をかけるだけでなく、どれだけ寄り添っている弁護士がその意を汲み取り、裁判所に伝える労力を惜しまないか、うらみつらみと決別して新たなステップに進んでもらうために、弁護士のできることはたくさんあるように思います。
ところで小心者ですから私、その天井のミシミシ言う音、本当に怖かったです。
なんでって
あの東京霞が関の18階建ての巨大な建物の中途半端な4階にいて建物が崩れたりしたら
見つけてもらうのに1年はかかりそうですから
平成24年9月11日 分責 弁護士 菊谷淳子