ミモザノヘヤ

高田馬場の弁護士の日記です。

懐かしの八墓村

 私は子どものころから致命的にどんくさかったので、人並に運転免許をとろうなどと大それたことは考えたこともありませんでした。しかし諸事情によりやむなく免許をとることになり、せめてひとけのなさそうなところで練習をと思い、ものすごい山奥の合宿免許に行きました。  そこは、横溝正史の小説「八墓村」のモデルとなった村の近所。 教習所についた時に「ここらへんで一番ひらけているところはどこですか」と受付で尋ねると、 「そりゃあこの教習所じゃ。自販機があるけん。」 という返事が返ってきたことは今でも忘れません。しかし、それくらい田舎だからといっても油断してはなりません。  都会では考えられないスピードで走る乗用車。農道のありえない急角度の曲がり具合、神出鬼没のねぎを積んだ自転車、独自の方式の昼と夜で異なるルールで光る驚異の信号機。  走り屋もでます。 「道を譲ってもらったらパッシングしてお礼をしましょう・・・て教科書には書いてあるけど、したらいけんよ、「バトル開始」っちゅう意味やけんね」という講議は忘れられません。  最短14日(AT限定ですから)のところ成仏も可能な49日をはるかにこえてほうほうのていで生還しましたが、任意保険にはちゃんと入ろう、とにかく運転しないようにしよう、と肝に命じました。  ところで、京都府亀岡市で少年の運転する乗用車が集団登校の列に突っ込み、10人が死傷するという事件がありました。  報道では亡くなった方々のことはよく報道されていますが、私はむしろ報道には出ていない怪我をした児童たちが今どのような状況なのだろう、今後どうなるのだろう、ということが気がかりでなりません。  死者が出るほどの事故ですから、怪我も相当重かったのではないか、後遺障害は残らないだろうか、治療費はどうなっているのだろう、無免許ですから任意保険が出るとは思えません。自賠責は入っているのだろうか。自賠責すら対象にならない場合には、民事の損害賠償するしかありません。しかし被害者の数も多く、それぞれの被害額も大きいです。実質的な救済になる可能性は低いかもしれません。  報道では重視されないかもしれませんが、後遺障害は程度の如何を問わず、これからずっと残るという事実自体が被害者を苦しめます。被害者本人だけではありません。その生活を支える家族にも。  せめて加害者に免許があって、任意保険に入っていれば。  交通事故を起こしたくて起こす人はいません。しかし、自分が加害者になった場合の責任をきちんと果たす用意をすることは運転する大前提です。責任を果たせないのに運転してはならないのです。 それはともかく、私はこのどうしようもない私に延長料金なしで成仏するまで49日間ご飯を食べさせてくださった教習所と命がけで教えてくださった教官にはとても感謝しています。  テレビ完備ということでしたが、教育テレビしか映りませんでしたけれどもそんなこといいんです。ありがとうございました。  平成24年4月29日 文責 弁護士 菊谷淳子