桜が満開です。今日は中央線に乗って四ッ谷、市ヶ谷、飯田橋…本当に眺めているだけでためいきのでるような美しい光景でした。
桜が咲くといつも思いだします。私が一番好きな柳屋小さんの噺、長屋の花見。
お金のない長屋の店子たちが大家に連れられて上野公園に花見に行きます。が、お金がないので、毛せんの代わりにムシロをしき、かまぼこのかわりに大根のお香こ、玉子焼きの代わりにタクワン、酒の代わりに番茶を煮出して水でわってうすめたもの。全部ニセモノです。
お重をムシロで包んでとぼとぼと歩く姿は花見というよりは何かの死骸を捨てにいくよう。
ムシロを横一列に並べて座り物乞いスタンバイ。
タクワンの玉子焼きをさも本物のように音をたてずにのみこもうとするのは命懸け。
貧乏でも花見くらいはしよう、という大家さんの粋な計らい、店子にとっては有難迷惑、この理想と現実のギャップ。およそ花見の陽気さとはかけはなれた別の陽気さにつつまれてゆく花見。
最初はやけくそでも本人たちはそれなりに自分のおかれている状況を受け止め、それなりに楽しみ始めます。もちろん「本物」の花見客から「本物」をかっぱらう隙も見逃しませんが。
自分のおかれた状況を楽しむ余裕、好機逃さずお目当てをすかさずゲットに行くしたたかさ、勉強になります。ただ東京に来る前はこのような笑いあふれる土地柄に大いに期待していましたが、どうもこういうユーモアは現代の東京にはなかなかないようで、もっぱら寄席通いでしか味わえないのが残念です。
ともかく今年こそはリアル花見をしようと思います。
平成24年4月9日 文責 弁護士 菊谷淳子