ミモザノヘヤ

高田馬場の弁護士の日記です。

大つごもりの胸算用

年明けが忙しくなりそうなので、今年は出国せず日本で本格的なお正月を迎えることにしました。 粛々と大掃除を済ませ、おせちを作り、銭湯でさっぱりし、そしてやっぱり事務所で起案中です。  ところで、年末は仕事納めの関係で、振込予約を使う会社も多いと思います。  ある会社が12月31日付で退職する社員に、12月28日付で振り込まれるよう退職金の振込予約を12月26日に行いました。この会社は12月27日午後0時15分(おひるです)が年内最終営業日でした。  ところがこの社員に債権を有する者が退職金債権の仮差押をしていました。債権の仮差押とは、ある人がある人に払わうべき債務を支払ったらあかんよ、という裁判所による命令です。  この仮差押命令は12月26日に発令し、仮差押がされましたよ~本人には払わないで下さいね~という通知(送達)が、27日の午前11時にこの会社に届きました。  しかしこの会社は26日の時点で振込予約をしていましたのでそのまま28日、退職金は振り込まれてしまいました。  仮差押をした債権者と退職金を振り込んでしまった会社とで争いました。  一審、二審とも裁判所の判断は  26日に振込み予約していたんですから~しょうがないでしょう~というものでした。  最高裁は、この事件について二審の判断には法令の解釈適用に誤りがあるから、やりなおせ、といいました(最判平成18.7.20 )  「振込依頼を撤回して債務者の預金口座に振込入金されるのを止めることができる限り、弁済をするかどうかについて決定権を依然として有する。」とし、  「送達を受けた時点で人的又は時間的余裕がなく、振込依頼を撤回することが著しく困難であるなどの特段の事情があったかどうか等について更に審理を尽くさせる」  そのため、この会社が午前11時に送達を受け、それから終業までの1時間以内に銀行への振込予約の撤回が可能だったかを審理したうえで結論を出しなさい、撤回不可能でない限り、原則として退職金を振り込んでしまったことを債権者に対抗できないよ、と判断しました。    午前11時に送達を受け、わずか1時間で終業という時間も少々気の毒には思いますが、この会社はおそらく払ってしまったらどうなるかということを安易に考えていたのではでないかと思います。 さて、これから、電車に乗って浜松町へ向い、海へ出る予定です。 皆様、1年間どうもありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いします。どうぞよいお年を。    平成24年12月31日 文責 弁護士 菊谷淳子